店主お薦めエルガー

Cafe ELGAR の店主オススメのエルガーです。

 折を見て接していただければこれ幸い。(なおCD番号は店主の持っている盤のをそのまま転記しました。発注には直接役立ちませんご了承ください。)



  

交響曲第1番、序曲「コッケイン」、交響曲第2番、交響的前奏曲「ポローニャ」、「謎の変奏曲」、行進曲集「威風堂々」(全曲)、組曲「子どもの杖」第1,2番、3つのバイエルン舞曲、序曲「フロサワール、交響的習作「フォールスタッフ」、組曲「子ども部屋」、劇「グラニアとディアミルド」付随音楽、弦楽セレナード、エレジー、「夢の子どもたち」、「カリヨン」、凱旋行進曲(「カラクタクスから)、イギリス行進曲、帝国行進曲、「夜の歌」、「朝の歌」、瞑想曲(「生命の光」から)

 演奏:ロンドン・フィルハーモニック、(「謎の変奏曲」のみロンドン交響楽団) 指揮:サー・エイドリアン・ボールト (東芝EMI TOCE-9780〜85)(S、「子ども部屋」のみ M)

 夢にも思わなかったボールトのエルガー国内発売です。生前とにかくボールトは人気がありませんでした。ホルストの「惑星」か、ヘンデルの「メサイア」ぐらいは評価されていました。しかし、その他はまるで無視されているようでした。
 ボールトはエルガーの若き友であり、また初代エルガー協会の総裁でもありました。いわばエルガーのエキスパートだったのです。ところが、この国ではエルガーの人気もあまりなく、したがって「売れない」と判断した東芝はボールトの振ったエルガーをほとんど出しませんでした(あるいは出してもすぐ廃盤)。わたくしなど、輸入盤取扱店でこのCD収録曲のほとんどを取り寄せて買ったものです。
 98年にこのCDが発売になったときは「まさか?!」って喜びの驚きがわき起こったものです。それだけエルガーやボールトに対する評価も変わってきたのでしょうね。
 演奏はどれも皆、ボールト的としか言いようのないものばかりです。個性的な表現はほとんどありません。オーソドックスそのもので、細部にこだわらない全体の見通しを重視した演奏です。こうしたボールトのやり方は大曲向きではあります。ですから交響曲や序曲、行進曲あたりは抜群です。なかでも第1交響曲のしみじみとした深い味わいはなんとも言えません。また、「カラクタクス」の凱旋行進曲など重厚でスケール感満点。もう圧倒されてしまいます。ただそれに引き替え「朝の歌」とか「夢の子どもたち」のような小品となると、無骨というか色気のない演奏でイマイチです。
 なおこのアルバムは「交響曲・管弦楽曲集」となっており、協奏曲(含序奏とアレグロ)やオラトリオ、他人の作品のアレンジものなどがオミットされているのが多少残念です(しかし「南国にて」、「真紅の扇」はなぜが入っていない。これは異議申し立てる。)。



  

交響曲第1番、行進曲集「威風堂々」から第1、3、4番、序曲「南国にて(アラッショ)」、交響曲第2番

 演奏:BBC交響楽団 指揮:アンドルー・デイヴィス (独テルデック 0630-18951〜2) (D)

 ブックレットの表紙に「威風堂々」第5番と表示されているのは間違い。実際は4番が収録されています。交響曲1番はこと近年人気曲でこの国でも再三コンサートで採り上げられています。特に尾高忠明はこの曲を十八番にしています。ただ、CDだと尾高盤は自身の真価を発揮しているとは言えません。
 数多ある「1番」の中から1枚というのも難しいところですが、わたくしなら音質も加味してこのアンドルー・デイヴィス盤を推します。オーソドックスな演奏ながら、この曲の抒情的な面を全面に押し出ています。
 無論このCDの他の曲の演奏も悪くありません。




  

「謎の変奏曲」、 行進曲集「威風堂々」から第1、2番、 「インドの王冠」からムガール皇帝の行進

 演奏:BBC交響楽団 指揮:レナード・バーンスタイン (独DG 413 490-2) (D)

 晩年のバーンスタインはデフォルメの大家でした。このエニグマも例外ではありません。異常に遅いテンポは好き嫌いの分かれるところでしょう。店主は非常に好みます。我を忘れたかのようなニムロッド、壮絶なE.D.U. 。BBC響はいぶし銀のようなしぶいサウンドでせまります。
 3曲のマーチもこれまた猛演です。「威風堂々」第1番などニュー・ヨーク・フィルとの旧盤をはるかに凌ぎます。うねりのきいたスケール感の大きな演奏です。最後の「ムガール皇帝」のエンディングなど空恐ろしく、ここまで来るとエルガーじゃあないかも知れません。
 なおこの盤は珍しくエルガーの(任意の)指示通り、「謎の変奏曲」、「威風堂々」第1番にオルガンがフューチャーされています。




  

序曲「コケイン」、弦楽セレナード、「謎の変奏曲」

 演奏:ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団、指揮:サー・トーマス・ビーチャム (英ソニー・クラシカル SMK89405)(M)

 1954年の録音で、モノラルです。エルガーとビーチャムとは不仲だったようです。で、ビーチャムはほとんどエルガーの作品を録音していません。いかなる事情でこの録音がなされたのかは良くわかりませんが(ブックレットに記されているようですが、あいにく英語が苦手なもので)2001年まで「お蔵入り」になっていた曰くありげな1枚です。
 演奏の方はなかなか優れたものです。ボールトのように立派だがやや堅実に過ぎる演奏とは正反対で、どれも小粋でエレガントなエルガーを描いています。




  

「聖体奉挙」(いわゆる「高地」のこと)、「ため息(ソスピーリ)」、「伊達男ブランメル」のメヌエット、「スペインの貴婦人」のブレスコ、「さらば」(ゲール編曲)、「星明かりの急使」のワルツ、ほか5曲

 演奏:ボーンマス・シンフォニエッタ 指揮:ジョージ・ハースト (英シャンドス CHAN 8432) (S)

 選曲が良い。なかでも「聖体奉挙」がオリジナル編成で聴けるのがうれしいものです。これら6曲のうち「ため息」以外はさして知られていないのが残念でなりません。どれも心和ませる名曲なのですが。演奏がイマイチなのが残念です。とくに弦のアンサンブルがややお粗末で、薄っぺらな感じ。(なお「ほか5曲」はヴォーン=ウィリアムズの曲)
 「聖体奉挙」だけなら名演はヒコックス/ロンドン響(英シャンドス CHAN 8788〜9)です。しかし大作オラトリオ「神の国」のフィル・アップに収録されたものです。ですからこの曲を聴くためだけなら敢えておすすめはしません。(でも「神の国」は名作なので、できたら是非聴いていただきたいものですが。)




  

「朝の歌」、メヌエット(「伊達男ブランメル」から)、「我が古き調べ」(「星明かりの急使」から)、「子どもたちへ」(「星明かりの急使」から)、「太陽の踊り」(「子どもの杖」組曲第1番から)、「夢の子どもたち」、「愛の挨拶」

 以上、演奏:フレデリック・ハーヴェイ(baritone)、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 指揮:ローレンス・コリングウッド
 
メヌエット、「五月の歌」、「ローズマリー」(「あれは思い出のために」)、バスーンと管弦楽のためのロマンス、「セヴィリアの女」、「セレナード・リリック」、3つの性格的小品、「カリッシマ」、「ミーナ」

 以上、演奏:ミカエル・チャップマン(bassoon)、ノーザン交響楽団 指揮:サー・ネヴィル・マリナー (英EMICLASSICS CDM 5 65593 2) (S)

 たとえばもし、ビートルズの「アビイ・ロード」がジャケット変更になったり、曲順を入れ替えられたり、あるいは他のアーティストの曲と併せて収録されたりしたら、これはもう大事です(だいいちあり得ない)。クラシック音楽の場合、やれ楽譜がどうの、エディションがどうしたと音楽のオリジナリティにはうるさい限りです。なのにアルバムのオリジナリティに関してはまったく無頓着です。 たんに「CD1枚に収録できるから」と言う理由だけで、コリングウッドのアルバムとマリナーのアルバムを一緒に1枚にしていいものでしょうかね。しかも、てきとーなジャケット・デザインで。
 まぁ文句はさておき、マリナーのはとにかく珍しいレパートリーが揃っているんです。「セヴィリアの女」、バスーンと管弦楽のためのロマンスは世界初録音。その他の曲すべてもSPでは録音されて以来ながらくレコーディングがなく、ステレオでは初めてのものばかりです(いくつかはその後、デル=マー、ボートン、ヒコックスらが録音しましたが)。演奏はマリナーらしくきりりと引き締まった歌わせ方で聴かせます。ノーザン交響楽団もすぐれたアンサンブルで、まずはお薦めできるでしょう。
 逆にコリングウッドのは、のんびりおっとりしたエルガーです。収録曲もまず比較的ポピュラーなところが揃っています。ただ録音はマリナーに比べるとやや落ちます。
 なお、3つの性格的小品(実はその原曲)と「セヴィリアの女」は因縁の作品です。1889年ごろのこと。無名時代のエルガーにとってはじめて、彼の作品のオーケストラ試演のチャンスがやってきたのです。これら2曲はその際演奏されるはずでした。しかし、アーサー・サリヴァンがやって来て、突如自作のリハーサルをねじ込んでしまったのです。2曲の試演はおじゃんに。ウ〜ン残念。
 で、わたくしはサリヴァンが大嫌いなんです。




  

「朝の歌」、「夜の歌」、「セレナード・リリック」、「愛の挨拶」、「夢の子どもたち」、「コントラスト」(3つの性格的小品から)、「ひとりごと」、「森の間奏曲」(「カラクタクス」から)、2つの間奏曲(「フォールスタッフ」から)、3つのバイエルン舞曲

 演奏:レオン・グーセンス(ob)、ロナルド・トーマス(vn)、ボーンマス・シンフォニエッタ、指揮:ノーマン・デル=マー (英シャンドス CHAN 8371)

 この国では「知る人ぞ知る」指揮者だった故ノーマン・デル=マー。かれはすぐれたエルガー指揮者でした。とくにこのアルバムは、いくつか競合盤のあるエルガー小品集のなかでも最高です。デル=マーの実力を知るには最適なものだと信じております。やさしく温かくメロディーを歌わせていきます。この調子で「伊達男ブランメル」のメヌエットや「セヴィリアの女」、「ミーナ」なんか録音しておいてくれたら良かったのにと悔やまれます。この演奏を聴き慣れると、ボールトの振ったエルガーの小品などは無骨で楽しめません。(やはりボールトは大曲向きですね。)
 とりわけ「セレナード・リリック」や「愛の挨拶」、「コントラスト」、「ひとりごと」など、いやもうどれも最高です。この「愛の挨拶」は通常版とは異なります。主旋律をヴァイオリンのソロで提示したものであり、おそらくは自作自演盤を譜面におこしたものと思われます。
 なおデル=マーはロイヤル・フィルと「謎の変奏曲」も録音しており、これも隠れた名盤だと思います。




  

組曲「子どもの杖」第1、2番、「スターライト・エクスプレス(星明かりの急使)」抜粋、「夢の子どもたち」

 演奏:アリスン・ハグリー(ソプラノ)、プリン・ターフェル(バス)(以上「星明かりの急使」) ウェールズ・ナショナル・オペラ管弦楽団、指揮:サー・チャールズ・マッケラス (ポリドール POCL-1254) (D)

 「星明かりの急使」は「アルルの女」、「くるみ割り人形」、「ペール・ギュント」などと同様のポピュラー名曲になって然るべき作品だと思います。とにかく親しみ易い佳曲です。全曲盤はハンドリーの指揮によるものがあったが、CD化に際して2曲トリミングされています。収録時間の関係のようですが、アナログ盤は完全全曲演奏でした。マッケラスの指揮はメルヘンの世界をいきいきと描きあげていきます。ターフェルのバスは普通ですが、ハグリーのソプラノが繊細のきわみで美しい。幻想的な小品「夢の子どもたち」もオススメの名曲です。




  

ヴァイオリン協奏曲 ロ短調 作品61、他1曲

 演奏:ヒラリー・ハーン(Vn)、ロンドン交響楽団、指揮:サー・コリン・デイヴィス

 新しい録音で「これは」という演奏になかなか巡り会えませんでした。ようやく出てきたこの曲の本命盤。ハーンはまずテクニックが非常に優れている。下手をすれば冗長で退屈な作品になりかねないこの大曲を、スリリングに聴かせる技は並大抵ではありません。同じヴィルトーゾ・タイプでもハイフェッツ盤はテクだけを売りにし、「エルガーらしさ」を損ねてしまったものとは本質的に異なり、十二分にエルガーの音楽を堪能させてくれる稀代の名演だと思います。デイヴィスのツケもハーンのスタイルに乗じたもので、ハーンのソロを引き立てて余りあるものです。




  

ヴァイオリン協奏曲 ロ短調 作品61、「謎の変奏曲」作品36

 演奏:イェフディ・メニューイン卿(vn)、ロンドン交響楽団(作品61)、ロイヤル・アルバート・ホール管弦楽団(作品36) 指揮:サー・エドワード・エルガー (英EMI CLASSICS 7243 5 66979 2 8) (M)

 作品36は1926年、作品61は1932年の録音です。
エルガーはおびただしい数の自作自演盤を遺しました。そしてその多くはCD化され、容易に聴くことが出来ます。エルガーの遺した演奏はこんにちの我々にとって歴史的史料としてかけがえのない財産ではあります。しかし残念ながら、その多くは必ずしも名演とは言えません。演奏スタイルは大時代的であり、また管弦楽の演奏技術も現代の水準から比較すればかなり落ちます。
 しかしそんな自作自演のなかにも名演はあります。まず第一に挙げられるのは若きメニューインとのヴァイオリン協奏曲でしょう。メニューインは幼いころからヴァイオリンの才能を発揮し、「天才少年」の異名を持っていました。 この盤は当時16歳のイェフディ君と英楽壇の重鎮エルガー翁との協演です。
 演奏スタイルはやはり古めかしいものです。メニューインも後年とは異なり、かなりポルタメントを多用しています。しかし歌い回しは甘く、温かみのある音色と相まって独特のいい雰囲気を持っているのです。エルガーのツケもメニューインを好サポートしています。この演奏の場合、大時代と言うよりも、むしろレトロな感覚が得も言われぬ懐かしさをかもし出しているって感じです。
 カップリングの「謎の変奏曲」は管弦楽が演奏技術的によくなく、演奏も古めかしさばかり目立ちます。残念ながらあまりおすすめ出来ません。ヴァイオリン協奏曲の他で、エルガーの自作自演盤としては、女流チェリスト・ハリスンと組んだチェロ協奏曲がおすすめです。




  

チェロ協奏曲 ホ短調 作品85、「謎の変奏曲」 作品36

 演奏:ジャクリーヌ・デュ=プレ(vc)、フィラデルフィア管弦楽団(作品85)、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(作品36) 指揮:ダニエル・バレンボイム (CBS/SONY 28DC 5169) (S)

 このCDに関しては、エルガーとの出会い の項をご参照ください。




  

ヴィオラ(チェロ)協奏曲(ターティス編曲)、3つの性格的小品、他1曲

 演奏:リヴカ・ゴラーニ(va)、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 指揮:ヴァーノン・ハンドリー (英コニファー CDCF 171) (D)

 ヴィオラ版の「チェロ協奏曲」にはかなり違和感を覚えます。ヴィオラで弾けない音域が出てくると、いきなりオクターブ上がったりするのは下手なカラオケの歌を聴いてるみたいです。演奏は決して悪くないのでしょうが…。
 そんなことより3つの性格的小品。これは最高です。なかでも「ムーア風セレナード」のしっとりした歌わせ方は絶品。ハンドリーは間違いなく最高のエルガー指揮者のひとりです。
 録音も美しくこれはお薦め出来ます。(なお他1曲はアーノルド・バックスの曲)




  

管楽五重奏のための音楽全曲集その1
ハーモニー・ミュージック第5番、5つの間奏曲集、ハーモニー・ミュージック第1番、「ミセス・ウィンスロウ・スージング・シロップ」、「イーヴズハム・アンダンテ」

 アセナ・アンサンブル (英シャンドス CHAN 5663)

 フルート2、オーボエ、クラリネット、バスーンの五重奏曲集。「その2」もあり、併せて接していただきたいものです。ただ「全曲集」と名乗ってあるにしては「抜け」があり、ハーモニー・ミュージックは全7曲中5番までしか収録されていません。
 1878年から翌年にかけて作られた一連の作品。エルガー、21〜2歳の頃の若書きです。しかしながら「その2」に含まれる「6つのプロムナード」の第5曲は晩年の組曲「セヴァーン川」に引用され、「4つの舞曲」のサラバンドは死によって未完に終わった「スペインの貴婦人」に引用されています。
 ジャンルとしては室内楽に入ります。しかしながらもっぱら屋外で友人たちと楽を興じるために作られたようです。いずれも肩の凝らない気軽に聞ける音楽です。なかでもハーモニー・ミュージック第5番の第3曲「ノアの方舟」などエルガーの書いたメロディーでも最も美しいもののひとつだと思います。




  

弦楽四重奏 ホ短調 作品83、ほか1曲

 演奏:ブロドスキー弦楽四重奏団 (クラウン CRCB-6) (D)

 エルガーは1918年から19年にかけて、3曲の室内楽曲を立て続けに作曲しました。ヴァイオリン・ソナタ作品82、弦楽四重奏曲 作品83、ピアノ五重奏曲 作品84です。
 弦楽四重奏曲の場合、やはり不滅の「ピアチェヴォレ」(おだやかに〜第2楽章)が何と言っても光ります。以前、知人にこの第2楽章を聴かせたら「チャイコフスキーみたいだね。」って言われてしまいました。そのくらい甘美なメロディーにあふれた楽章です。エルガーの作品でも最も美しい旋律のひとつがここに聴かれます。
 ブロドスキー弦楽四重奏団の演奏はごくスッキリしたものです。しかし適度に熱っぽく歌わせており、決して食い足りないこともありません。標準的美演とでも申しましょうか。(なお他1曲はフレデリック・ディーリアスの曲)




  

「夜の歌」、「朝の歌」、6つの第1ポジションによる大変易しい小品、「愛の挨拶」、「気まぐれな女」、マズルカ、「ため息(ソスピーリ)」、ヴァイオリン・ソナタ、「カント・ポポラーレ」

 演奏:加藤 知子(vn)、江口 玲(pf) (日本コロムビア COCO-80813) (D)

 エルガーの作品は決して英国の民族音楽などではありません。我々日本人が聴いても十二分に楽しめるインターナショナルな音楽です。演奏者だってそうです。英国人に限らずとも、いろんな国のアーティストが取り上げてしかるべきだと思います。地元が「お国もの」を積極的に取り上げるのは当然かも知れません。でも「外国」も負けてほしくないと思います。わたくしは「エルガーの音楽は英国の奏者のものに限る」などとは決して思いません。この加藤知子さんのアルバムなど、非英国人によるエルガーの名演奏の代表的な例ではないでしょうか。
 演奏には独特のスケール感がありながら、同時に得も言われぬ色気があります。これは稀代の名演です。




  

「歌のように」、「羊飼いの少女」、「ローズマリー」、「グリフィネスク」、ソナチネ(1889年版)、プレスト、メヌエット、「五月の歌」、「夢の子どもたち」、「スキッツェ」、「シミルナにて」、演奏会用アレグロ、「カリッシマ」、ソナチネ(1931年版)、セレナード、「さらば」

 演奏:ピーター・ペティンジャー(pf) (英シャンドス CHAN 8438) (D)

 「ピアノ全曲集」とのことですが、なぜか「愛の挨拶」が入っていません(あと5つの即興曲と「謎の変奏曲」のピアノ版もそうなんですが)。それはともかく、ソナチネなど原典版と改訂版の双方を録音するほどの徹底ぶり。作曲年順に収録してあるのもうれしい配慮です。
 大作は演奏会用アレグロのみで(演奏時間 10分00秒)あとはすべて小品ばかりです。どれもエルガーのメロディー・メイカーぶりが遺憾なく発揮された佳曲です。
 ペティンジャーの演奏は軽妙そのものです。妙なスケール感がないのが好ましい。音の粒だちもデリケート。心やさしいエルガーを描いています。




  

オラトリオ「ゲロンティアスの夢」作品38、他1曲

 演奏:フェリシティ・パルマー(メゾ・ソプラノ)、アーサー・デイヴィス(テノール)、グウィン・ハウェル(バス)、ロンドン交響合唱団、ロンドン交響楽団、指揮:リチャードヒコックス

 エルガー最高傑作とされるオラトリオ「ゲロンティアスの夢」。英国三大オラトリオのひとつとあってCDはおびただしく出ています。聴ける範囲の演奏はすべて耳にしたが、まずはバルビローリ盤を挙げます。次いでこのヒコックス盤でしょうか。どちらかとなれば録音が優れ演奏に余計な演出がなく、ストレートに表現されたヒコックス盤をまずお聴きいただきたいところです。それからより深く壮麗なバルビローリ盤をお聴きいただければと思います。
 この曲にはエルガーの最も厳しく激しい一面が現れています。そして後半の壮麗さは威風堂々のエルガー、面目躍如といったところです。私見では比較的取っつきにくい作品だと思います。初めて聴かれる向きにはむしろ「神の国」あたりから聴き始めるのが良いかも知れません。




  

オラトリオ「使徒たち」作品49、「生命の光」作品29より瞑想曲

 演奏:シェイラ・アームストロング(ソプラノ)、ヘレン・ワッツ(コントラルト)、ロバート・ティアー(テノール)、ベンジャミン・ラクソン(バス)、クリフォード・グラント(バス)、ジョン・キャロル・ケイス(バス)ダウン・ハウス校合唱団、ロンドン・フィルハーモニー合唱団、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、指揮:サー・エイドリアン・ボールト

 わたくし個人的にはこの「使徒たち」がエルガーの最高傑作だと信じます。しかしながら、全曲録音は3種しかなく、このボールト盤と、ヒコックス盤、クック盤しかありません。この作品のファンとしては残念なことですが…。
 この作品のテーマ自体、イエスの受難を扱ったものであり、内容的には親しみ易いと思います。ただ、音楽の方は非常に重厚長大であり、親しみにくさでは「ゲロンティアスの夢」以上かも知れません。正直言ってわたくし自身、最初この曲が大嫌いでした。しかし何度も何度も聴き続け、全曲を覚えるようになってからこの作品のすばらしさがわかるようになってきました。
 演奏はボールト盤が絶品です。これはボールトのおびただしい録音の中でも最高傑作のひとつだと思います。もちろんヒコックス盤も悪くないのですが…むしろ古典的ですっきりしたクック盤をお薦めします。
 




  

オラトリオ「神の国」作品51、「ため息」作品70、「聖体奉挙」 作品11

 演奏:マーガレット・マーシャル(ソプラノ)、フェリシティ・パルマー(メゾ・ソプラノ)、アーサー・デイヴィス(テノール)、デイヴィッド・ウィルスン=ジョンスン(バス)、ロンドン交響合唱団、ロンドン交響楽団、指揮:リチャード・ヒコックス

 エルガーは「使徒たち」、「神の国」、「最後の審判」というオラトリオ三部作を念頭に置いていました。ところが「最後の審判」は少し着手しただけで完成されませんでした。完成された大がかりな声楽作品はこの「神の国」が最後となります。
 曲は最後の作品に相応しく非常に明るくきらびやかな作品です。エルガーのオラトリオ入門として最適な作品だと思います。
 演奏はこの曲ではヒコックス盤をとりたいと思います。「ゲロンティアスの夢」同様、余計な演出がなくストレートな表現が魅力的です。
 フィルアップされた「聖体奉挙」 は逆に思い入れたっぷりに演奏されています。同曲のベスト・パフォーマンスだと思います。




  

Disc:1 「おお、幸せなる目よ」、「驟雨」、「愛」、「我が恋人は北の地に住んでいた」、「ギリシア選集」から5つの合唱曲、「噴水」、「丘の上での死」、「スペインのセレナード(夏の夜の星)」、「夕べの情景」、「急流」、「ツバメがはばたくときに」、「森のせせらぎ」、4つの合唱曲
Disc:2 「雪」、「飛べ、さえずる鳥よ」、「なんと閑かなる夕べ」、「西方のかそけき風」、「臨終の王子」、「クリスマスのご挨拶」、「良き事後」、「伝令官」、「愛の嵐」、セレナード、「ズッ・ズッ・ズッ」、「さすらい人」、「起床ラッパ」、「彼ら安らかに」、「行け我が歌よ」

 演奏:ジェレミー・バラード、ロビン・ザールビー(vn)、キース・スワロー(pf)、ウスター聖堂合唱隊、ドナルド・ハント・シンガーズ 指揮:ドナルド・ハント (英ハイペリオン CDA 66271/2(S)) (D)

 タイトルに「エルガー全合唱曲集」とあるが、かなりの「抜け」があります。安易に Complete なんて言葉は使わないように。ただし、これ以上にまとまった合唱曲集は知りません。エルガーの合唱曲は、まずこの1組あれば良いのでは。
 第1曲の「おお、幸せなる目よ」からして美しいエルガーの合唱の世界が拡がっていきます。どの曲も心温まる歌唱です。
 なお、ジャケットはエルガーの生家のスケッチです。エルガーのイメージをジャケットにするならやはりこれ。




  

「バイエルンの高地から」、「オー・サルタリス・ホスティア」(1870年)、「オー・サルタリス・ホスティア」(1879年)、「オー・サルタリス・ホスティア」(1897年)、"Tantum Ergo"、"Ecce Sacerdos Magnus"、"Doubt not Thy Father'sCare"(「生命の光」から)、「世界の光」"(「生命の光」から)。

 演奏:ウスター聖堂合唱隊、フランク・ウィボート(pf)、ハリー・ブランマ(org) 指揮:クリストファー・ロビンスン (英シャンドス CHAN 6601) (S)

 「バイエルンの高地から」はピアノ伴奏によるものです(エルガー自身のアレンジかどうかは不詳)。少年少女を起用しているのでしょうか。愛らしい歌声はこの曲集にぴったりです。ピアノ伴奏のシンプルさも相まって、さわやかな名唱となりました。わたくしにとっては同曲のベスト・パフォーマンスなんです。さすが寺院の聖歌隊の歌唱だけあって、雰囲気は格別です。




  

 「花言葉」、「ロンデル」、"Dry those Fair, those Crystal Eyes"、「岩盤上のグレート・モールヴァン」、「祝福されし聖母マリア」の4つのリタニア、「戦の歌」、「いつでもどこでも」、「我が心よ語れ」、「メリーゴーランド」、「小川」、「巻き上げ機」、"Fight for Right"、"Follow the Colours"、「眠れる子ども」、「王道」、「月光に」、「生まれる権利」、「大きな吹き流し」、「王のチャリオット」、「西への出帆」、「不滅の軍団」、"It Isnae Me?" 、「去りにし、あまたなるまことの王妃」

 演奏:テレサ・キャッヒル(soprano)、ステファン・ハロウェイ(bass)、バリー・コレット(pf)、トゥダー合唱団 指揮:バリー・コレット (英パール SHE CD 9635) (D)

 文字通りエルガー珍曲集です。すべて声楽曲。
 最近、店主のいちばんのお気に入りのCDです。とにかく楽しい曲が多い。なかでも"Fight for Right"、"Follow the Colours"(それぞれ何と訳すべきか)とか「生まれる権利」など元気な曲を聴いてると、思わず体操したくなってきます。目隠し視聴したら誰もエルガーの曲って当てられないかも知れません。大変面白いアルバムです。
 ディレクターはバリー・コレット大先生。相変わらず下手くそです。歌手、合唱いずれも平凡。でも案外こうした平凡な演奏がオーセンティックな再現なのかも知れません。
 しかしコレットさんのお陰でエルガーの珍曲がいろいろと聴けるのですからありがたい限りです。コレットさんに座布団3枚!



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